2.6 生態系・生物圏の成り立ち

2.6.1 自然界における生物集団の構造レベル

地球上の何千万種とも言われる生物たちは、様々な地域環境に適応分布している。そして、それぞれの生物は、持ち合わせている生命情報を連綿と後世へと伝えようとしている。生物は非常に多様であり、例えば、緑色植物において大きさで見た場合、単細胞の藻類のようなごく小さなプランクトンから、北米の針葉樹セコイアのような高さが100メートル以上にもなる巨木まで、実に多様である。それぞれの生物は集団を形成している場合が多く、例えば、草原や森林などでは、同種の個体が群落を形成して、個体間の関係が緊密な場合が多い。また、生物は同種の他個体とばかりでなく、異種の個体とも様々な相互作用を持っている。このような同所的に生息している生物の総体を、「生物群集」としてとらえることができる。

生物集団は、その性質とその大きさから、家族、群れ、群体、群落、混群、種個体群、群集などといった様々なレベルで認識することができる。自然界における各種の生物の保全や管理を図る際には、生物集団の成り立ちは、個々の生物が生息環境の中で巧みに適応した結果であること、その適応の背景には、長い進化の歴史があることを知ることが大変重要である。

 

2.6.2 生態系と生物圏

自然界における生物群集の種構成は、人間の干渉がなければ、その地域の無機環境および地史を密接に反映しているものである。また、生物群集を構成している生物種間では、様々な相互関係が成り立っている。まとまった地域や水域における生物群集と、水、大気、土壌などの無機環境を一つのシステムとしてとらえたのが「生態系」である。多くの地域では、場所が移って行くにしたがって、生物群集の種組成が徐々に変わっていくので、生態系の境界を明白につけることは容易ではない。しかし、海洋中の島のような周囲とは環境的に隔離されたところでは、そこを島生態系として明瞭に認識することができる。近年では人為の影響が自然を大きく改変させていて、原生的な自然生態系が細分され、島化(孤立化)していく傾向にある。人間の影響の大きい生態系としては、都市生態系、水田生態系、畑地生態系、人工林生態系、牧場生態系など、数多くを認識することができる。

生態系の2大構成要素は、生物群集(生物的要素)と、それを取り巻く無機的な環境(非生物的要素)である。生態系を認識する際に重要な事柄は、以下の3点である。(1)生物的要素と非生物的要素は等しく重要である。(2)生物的要素と非生物的要素は互いに密接な関係にある。(3)生態系の一つの構成要素の変化は、影響の大小の程度はあっても、他の様々な構成要素の変化を導く。

地球の表面には、様々な生態系を構成要素とした最も大きな複合体としての「生物圏」の存在を認識することができる。生物圏が認識されている星は、今のところ地球のみであり、宇宙の中のかけがえの無い存在と言えよう。

 

2.6.3 生物群集における食物連鎖

自然生態系の構成要素である生物群集は、多数の生物種から成り立っている。そこでは独立栄養生物(一次生産者)である緑色植物が基礎生産を行い、その緑色植物を摂食する動物(消費者、あるいは二次生産者)、さらにその動物を摂食する捕食動物という具合に食物連鎖がみられる。通常の自然生態系におけるこのような食物連鎖の関係は、大変複雑であり、網目のようであるという意味で、食物網という用語も用いられている。食物連鎖の実際は、単純な1本の鎖のようなものではなく、いくつもの枝部分があり、それらが複雑につながって網目のような関係になっているのである。つまり、食物連鎖とは食物網を極端に抽象化してとらえたものか、あるいは食物網にある一つのつながりを指したものである。また動物は、寄生性の動物によって、体の外部や消化管内、あるいは体腔や臓器内に寄生されて、同化産物を摂食や吸収されたりもするが、寄生者にさらに寄生する生物がいる場合に、寄生連鎖といっている。なお、生きた植物から出発する食物連鎖を生食連鎖、植物の遺体から出発する食物連鎖を腐食連鎖と言っていて、生態系によってそれらの割合が異なっている。なお、最近、海洋生態系では食物連鎖の中で、微生物の位置が大変大きいことが指摘されている。

 

2.6.4 生態系における物質循環とエネルギーの流れ

生物に含まれるエネルギーは、食物連鎖の経路をたどって化学エネルギーとして移動していく。そして、その化学エネルギーの一部が生物の活動によって使われると、結果として熱エネルギーになり、それは生態系から失われていく。このようにエネルギーは川のように一方向に流れ、再び戻ることはないが、そのことを生態系における「エネルギーの流れ(エナジー・フロー)」と称している。これに対して、生体物質を構成している元素は、食物連鎖を通じて移動していくが、やがて微生物や菌類などの分解者によって分解され、再び生産者に戻ることができる。いろいろな元素のこのような動きは、生態系における「物質循環」と呼ばれている。

例えば、生物の死んだもの、つまり植物の枯死体や動物の死骸などは、様々な微生物や菌類そして小型の動物などによって栄養源として利用され、最終的に二酸化炭素、アンモニア、塩類、水などの無機物に分解され、それらは再び植物によって吸収され利用される。炭素、酸素、水素、窒素、リン、ナトリウム、カルシウムなどといった生体を構成している元素は、生態系の中の食物連鎖そして分解過程を通じて大きく循環している。なお、最近、緑色植物の根圏で菌類が共生していることが、一次生産者である緑色植物の栄養吸収にとって大変重要であることが指摘されている。

 

2.6.5 生態系・生物圏に対する人間の影響

生物としてはたった一種でしかない人間であるが、文化を獲得し、工業・農業・漁業・林業などの各種の産業によって(時には戦争で)、膨大な種数の生物を含む生物圏の全体に大きな影響を及ぼし、また多数の生物を絶滅させてきた。現在の地球の生物圏中では、人間の現存量と活動量が異常に大きく、人間が改変した生物である栽培植物や家畜まで含めれば、大量の生物がヒトの産物なのである。そして、地球大気への二酸化炭素の放出や、放射性元素を含む各種微量元素の拡散に見られるように、人間の活動量は、何がしかの制限を設けないと、地球の全生物に取り返しのつかない被害を及ぼしかねないほどになっている。端的に言えば、不用意な人為活動によって、幾多の生物を絶滅に追いやって来たことか、また、ひとたび絶滅してしまった生物集団は、もはや決して甦らないことを、現代人はその素養として深く自覚すべきである。